【SDGs対談・第1回】椋林裕貴さん×今井了介「びずめし特別対談企画」の新企画がスタート。「ごちめし/さきめし/びずめし」プロデューサーの今井了介が「SDGs」をテーマにゲストとお話します。第1回目は、「マッシュホールディングス」CSR推進室・室長の椋林裕貴さんをゲストにお迎えしました。
「びずめしSDGs対談企画」第1回・椋林裕貴さん×今井了介
Natural & Organicのセレクトショップ「コスメキッチン」をご存知の方は多いのでは? コスメキッチンを擁する「MASH Beauty Lab」のExecutive Vice presidentであり、マッシュホールディングスでは、グループ全体のCSR(企業の社会的責任)を統括する椋林裕貴さんが1回目のゲスト。椋林さんにこれまでのオーガニックコスメを扱うコスメキッチンでの取り組み、SDGsやCSRについての考え方、そして、これからの取り組みについて聞きました。
▼キーワード▼
● 女性店長との出会い
● オーガニック事業に取り組む ● SDGsやCSRは儲かることなのか? ●「共感」から始めましょう! ● 私たちが目指す持続性のある未来女性店長との出会い
今井了介(以下:今井):「椋林さんといえば、ナチュラル&オーガニックコスメを販売する『コスメキッチン』や、ニュージーランド発のサステナブランドの『ecostore』を大成長させた方というイメージですが、立ち上げた時は、CSRとかSDGsの言葉がまだ定着していない、かなり前だと思うのですが、ナチュラル&オーガニックコスメをやろうと思ったきっかけが知りたいです」
椋林裕貴さん(以下:椋林):「僕はある会社でモバイルコマースとファッションのプロデューサーを兼務していたような事業をしていたんですけど、ある日、突然、別部門のチームがやっていた『コスメキッチン』という事業を僕が担当することになっちゃいまして」
今井:「いきなりですか(笑)」?
椋林:「はい。ただ、当時のコスメキッチンは今とは全く違っていて、毎月赤字が200万円出ているような状態です。自分もデパートに約10年間いたものですから、女性店長怖い人かな?と思いながらも、赤字の原因を把握しないといけないじゃないですか。挨拶に行ったんですよ」
今井:「で、実際に怖い人だったのですか?」
椋林:「『赤字のままだと事業がなくなっちゃう可能性があるから、人なのか、物なのか、空間なのか、コトなのか、どこから手をつけましょうかと。人はいる?大丈夫?販売スキルのある人揃っている?商品は大丈夫かな?売れ筋あるのかな?消費者が欲しいものあるのかな?空間の見せ方は困ってない?集客は大丈夫なのかな?企画はできているのかな?どこから手をつけたらいいですか?』って、畳みかけた訳ですよ。その文脈でいうと、どこから手をつけようかじゃないですか。それが、その女性店長が本当に脚色なしで、『私たち、幸せになりたいです』とただ一言だけ、答えまして、で、どういうことかと聞くと『私は結婚して、子供産んで、幸せになりたいです』と」
今井:「ちょっと難しい答えですね…」
椋林:「で、その日は諦めて、2週間後にまたその店長に会いにいきましたら、浮かない顔をして『椋林さん女性の幸せってわかっていますか?』と」
今井:「その方もキャラクター濃いですね(笑)」
椋林:「そうしたらやっと色々話してくれまして、『とにかく私、ストレスがすごいです。見てください。このお店。(当時のコスメキッチン店内を指差して)添加物だらけです』それで、私は添加物?と」
今井:「なんだか部下から、怒られているみたいですね(笑)」
椋林:「彼女が話すには、化粧品を製造する際に使用される安定剤とか、よく混ざるようにとか、界面活性剤とか防腐剤、そしてテクスチャーをよくするためのもの、香料等々、石油由来のものが皮膚の毛穴から体内に入る『経皮吸収』が身体に良いとは思えない。ただ、法的には微量だと使用が認可されて人体に影響がないとされているものの、何十万人に1人、経皮吸収によって、身体が分解して排出しようとするので、排出する前のところに残留があると、いわゆる女性のホルモンのバランスが崩れてしまって、イライラする。更年期障害を悪化させたり婦人系の病になると不妊の原因になりやすい。だから買ってもらう度にお客様に『ありがとうございます』ということが後ろめたくてしょうがない。『気をつけてくださいね』と言いたいのに、『ありがとうございます』と言わないといけないことにストレスを溜めていたのですね」
今井:「なるほど。そんな考え方で悩んでいたんですね」
椋林:「会社がビジネスとしてやっていることが、働き手であるその女性店長とお客様にとって幸せじゃなかった訳ですね」
オーガニック事業に取り組む
椋林:「『なるほど深いな。自分は分かってなかったな』と思いまして、どうしたいのか? 彼女に聞きました。そうしたら『このお店の商品全部やめたい。安心安全なものにしたい。オーガニック商品を扱いたいです』と。そのとき初めて『オーガニック』という名前が出てくるんです。僕は当時、オーガニックというものが理解できなかったですし、ピンと来なかった。ファッションでその文脈を全く使ってなかったですし、理解してなかった。それが売れるかどうかもわからない。いいことは言ってそうだなということはわかるけど、今のSDGsもそうなのですが、いいことだなということと、商売として成立するかということは全く別だという観点で考えた時に『儲からなさそうだな』とちょっと思ってしまったのですね」
今井:「SDGsでもビジネスで成立するか?というところは考えますね」
椋林:「ところがあることをきっかけにコスメキッチンは主戦場をオーガニックに変えました。この『オーガニック』というキーワードこそが、現代におけるSDGs以上の言葉だと思っていて、そのきっかけというのが仕事仲間と飲んでいた時に、僕が『この歯磨き粉がいかに自然界の約束を守っているのか』ということを、今のビジネスを理解した上でいえば、トレーサビリティとかフェアトレードであるとか、それこそ貧困をなくそう、だから、生産者にフェアにお金を払っていこうよとか、全部紐づいてくるのでしょうが、『とにかく成分がすごい。口から流れでた生活排水も自然分解して海を汚さないです』と。自分は、百貨店マンの時から、サーフィンをしていて、サーファーって、だいたい海をこよなく愛しているというか自覚がありまして、『海を汚さないなんて凄くないですか?』て、熱弁していたら『椋ちゃん、大丈夫(笑)?』って」
今井:「その時は、仕事仲間の方には伝わらなかったのですね(笑)」
椋林:「その時に、あ、わかった、オーガニックって、心に作用するのだなと思いました。僕はたった2ヶ月でアロマとかメディカルハーブとか勉強しましたけど、1番の効果は人の心を変えてしまうというか、その世界観に入り込んで、ファンというよりは信者化して、布教活動として他人に『聞いてください』という動きになったのかと。このエネルギーはすごいということと、後ろめたさが一切ない。働き手の心を今の言葉でいうと、ウエルビーイング化すると言いますか、本当にすごい業界だと思いました。それで、当時の社長に直談判して『任せてもらえませんか?コンセプトからやり直したいです』『え、担当でしょ。やってください』という流れがあり、そこからコスメキッチンの成長が始まりまして、最初は赤字続きだったので、2010年にマッシュグループの傘下に入り、現在に続いています」
SDGsやCSRは儲けることなのか?
椋林:「僕らにとって『SDGs』という言葉は照れくさいです。なぜなら2006年当初から、『働き手の思いを実現させる空間』ということで、幻の会社名になりますが、最初、『リーフモールド』という社名を考えていました。『腐葉土』という意味で、美しい花を咲かせる、実ができて、葉が落ちて腐葉土になる、それが誰かのためになる。この現場で働く人たちがどんどん活躍していくことで、誰かのために教育者になることができる。『卒業しない会社』になれるのではないかということで、最後に『教育』が来るゴール設計を考えて立ち上げました」
今井:「計画やコンセプトがあった訳ですね」
椋林:「まず働き手の人たちにとって、そういうストレスを感じない商品を展開し、そして環境に配慮したものしか我々は仕入れない。オーガニックは自然界の約束を守っているということなので、おそらくSDGsで提唱されていることというのは、全ての幸福度や未来にとっての継続的な約束事ですよね。言語化されたそういった考え方や理論がSDGsだと思います。僕らはもう少し情緒的で漠然と始まったからですね」
今井:「『SDGs』という言葉は、社会の課題解決において、1つのキーワードだと思いますけど、その言葉自体を知らなくても、自分の生活がそうなっていたらそれでいいと思います。急にSDGsを学んで、自分の生活を見直さなくても、そういうオーガニックでもいいですし、自然界、無理のない経済等、SDGsのルールに則って、こうでないといけないということはない。SDGsの課題を解決するためにこうでなきゃいけないとか、企業が罠に嵌まりやすいパターンですね。今より少し理想に近づけばいいという感覚がいいと思います」
椋林:「SDGsやCSRの担当者が疲れていたらいけないなと思っていて、せっかく、何かしようという心持ちの方もたくさんいると思う一方、そうじゃない方もかなり担当になっていると思って。後者の方は、『お金ばかりかかるのでは?』とか『CSRとかESGは金食い虫だ』みたいなムードはあると思います。僕らが現在やっているオーガニックコスメを軸としたオーガニックライフ事業というのは利益や結果まで出せていますから」
今井:「今の話を伺って思い出したのは、誰もが知っている大企業のCSR部門の人から『子供食堂とか設計して欲しい』という話になって、いざ、提案すると、『それだったらウチ儲からないじゃん』と。『いやいや、CSRは儲かるためのものではないですから』みたいな。とはいえ、僕らも子供食堂の運用とか運営をしている中で、じゃあ、ボランティアとか福祉でずっと続けられるか…。つまり、ずっと0円で人の善意だけに頼っていては続かないので、絶妙なバランスでそれを再構築したい時に『SDGs』という言葉でもいいですし、『儲かるためになにかしましょう』ではなくて、『長くやっていくためにはこれくらいの設計がちょうど良くないですか?』と提案します」
椋林:「バランスが大事ですよね」
今井:「儲けちゃいけないということではなくて、役所に行って説明すると『なんでオタクらは子供食堂で手数料取るのか?』と言われることもありました。「じゃあ10年間0円でやれということですか?」と尋ねると、「福祉だからボランティア精神で」と。だから子供食堂は続かないのだなと思いました。儲けちゃいけない訳でなくて、儲けていい訳だけど、みんなの幸福度が満遍なく良くなっていればいいはずなのに、自然界のルールというか、平成からおかしくなったかなと思います。実態が無くとも経済強者が勝てば官軍みたいな感じです」
「共感」から始めましょう!
椋林:「SDGsやCSRはじめましょうとなると、極端なことを求めがち。僕らも化粧品で使っている容器はどうなっているのか?とか、紙パックや成分分解できるフタにしよう、ペットボトルも回収しようよ、容器はリサイクルしようという流れじゃないですか。私たちの化粧品業界もかなり浸透してきました。ただ、百貨店の1階にあるような大手化粧品会社も含めて、いきなりは変われないじゃないですか」
今井:「化粧品のボトルが紙パックになるのは想像しにくいですね」
椋林:「そこで約2年前から『リサイクルキッチン』という考え方を提案しまして、デザイン化してアップサイクルしていく。アップサイクルの時にアーティストも参加するような仕組みにして共感者が増えていけば、最終的にどうなっているのかを見てみたいです。我々の店頭で販売しているものもプラスチック1個もないのかというと、もちろんあります」
今井:「リサイクルから始める訳ですね」
椋林:「『まず回収しましょう。リサイクルしましょう』と、我々が動くと、BtoB効果で商業施設や、その先のクライアントさまらが動いてくれる。その先にいる大手の会社が動いてくれないとムーブメントにはならないので、僕らは小波を立てる役なのかなと。小波と小波が合わさるとビッグウェーブになるので僕らは小波側の役割なのかなとやっています」
今井:「海が大好きな椋林さんらしいお話ですね」
椋林:「あとは、働き手と買い手側であるとか、取引先様とのバランスが重要であると考えた時に、お店の空間を私たちは『売り場』とは呼ばないですよね。売り場はどうしても『売る場所』と漢字で書くので『売れたらいい』となっちゃいます。売上の場合で話すと、3000円と1万円の商品があって、閉店時間まであと3分しかない。お客様から「お姉さん信頼しているからどちらでもいいよ」となった時に、売り場だと1万円の商品を売ってしまう。店長に褒めてもらえるし、会社も数字を見ているからです。そこで僕たちは『売り場』ではなく、『お部屋』と呼んでいます。お部屋は家族、恋人、友人と過ごす空間。その空間に『売りつける』はないから、『聞いて、聞いて』の『共感』になります。僕たちは作り手の思いを伝えたいのです」
私たちが目指す持続性のある未来
今井:「僕たちGigiは『You are the best』という、医療従事者を支援するクラウドファンディングとかやりまして、リターン商品でTシャツとかエコバッグとか作りましたが、それは日本環境設計という岩本さんという方が代表の会社に作っていただきまして、ほぼ100%に近いリサイクルプラスチックで作る商品です。知らなかったことを知り、学ぶということは子供の時と違って、大人になると楽しいですね。大企業が少しずつ、SDGsに理解を示し始めているので、僕が現在、50歳ですが、今の20代、30代が僕たちくらいの年齢になる時は、当たり前になって、世の中も変わっているかもしれませんね」
椋林:「共通のワードがあるということはとてもいいですよね。国連が定めて、指標がある、言葉があるというのは全然違いますよね。ゴミ拾いした人は簡単にゴミを捨てなくなると思うので、徳島の上勝の子供たちはリサイクル施設にゴミを持ち込むから、ゴミ箱にもゴミを捨てないらしい。『ゴミ』という言葉が、意味や考え方が将来は変わってくるかもですね。私たちも『コスメキッチン』の制服はリサイクル素材でできたものを制服にしていて、自分たちが纏うことによって、意識を変えるのに挑戦したりしていますね。マッシュグループ全体では、CSRの一環として、全国に公園を作っていくプロジェクトを進めています。今年8月には、三陸で震災に遭った女川町の子供たちにプレゼントできました」
今井:「僕が『ごちめし』を始めるようになったのも、震災があった時に、日々、自身が見ている報道の中では食べるものとか住む場所がない中で、やはり、少しでも美味しい料理を食べた方が元気出るよなあと。人々が緊急事態で大変な時に音楽以外に役に立てるプラットフォームを持ちたいというのが当社の創業のきっかけであり目的でした。椋林さん、本日は素敵な話をお聞かせ頂き、ありがとうございました」
text:Kenji Baba(CR) photo:Zenjuro Setoguchi
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