「昆虫食を通して『考えられる社会』への一助になれていたら」/「ANTCICADA」代表・篠原祐太さん

SDGs対談

【SDGs対談・第2回】「びずめし特別対談企画」の新企画、第2回。「ごちめしさきめし」プロデューサーの今井了介が「SDGs」をテーマにゲストとお話します。今回は、昆虫食レストラン「ANTCICADA」代表の篠原祐太さんをゲストにお迎えしました。

初対面の2人。最初は自己紹介からの会談スタートです

「びずめしSDGs対談企画」第2回・篠原祐太さ×今井了介

テレビや雑誌で話題の「コオロギラーメン」など昆虫食を提供するレストラン「ANTCICADA(アントシカダ)」代表の地球少年・篠原祐太さん。食糧難や環境問題を解決するスーパーフードとして、現在、世界で注目を集める昆虫食。リアルな食体験で自然への最適解が考えられると語る篠原さんに環境や自然について、これからのビジネス思考について聞きました。

▼キーワード▼

● 篠原さんが昆虫を初めて食べたキッカケとは?

● 〇〇の〇〇のお茶を飲んでみましょう!

● 食べていないものを食べるトライ&エラーとは?

●世界から注目の昆虫食。持続性のある昆虫食とは?

● 持続可能性のあるビジネスモデルとは?

● 私たちが目指す持続性のある未来

篠原祐太さん/1994年地球生まれ。慶應義塾大学卒。幼少期より地球を愛し、あらゆる野生の恵を味わう。昆虫食歴23年。食材としての昆虫の可能性を探求。現在は、数千匹の生き物と同棲しながら、虫料理開発、ワークショップ、執筆、講演と幅広く活動。狩猟免許や森林ガイド資格保持。昆虫食レストラン「ANTCICADA」代表

今井了介/1971年、東京都生まれ。音楽プロデューサー。「ごちめし/さきめし」を運営するGigi株式会社代表。1999年に手がけたDOUBLE「Shake」のヒット以降、安室奈美恵「Hero」やLittle Glee Monster「ECHO」など多くのアーティストの楽曲・プロデュースを手がける

篠原さんが昆虫を初めて食べたキッカケとは?

今井了介(以下:今井):「今日の対談の場所としても提供頂いた、レストラン「ANTCICADA(アントシカダ)」といえば、有名な『コオロギラーメン』ですが、そもそも、コオロギや昆虫を食べるキッカケは何だったのですか?」

篠原祐太(以下:篠原):「幼少期から自然が大好きで、今でこそ昆虫料理ですけど、虫だけではなくて、川にいる魚とか、八王子の高尾山の近くで育ったので、暇さえあれば山や川に行っていろんな生き物を探してみたり、家で飼ってみて、そのうちに食べてみてというのが自然にあって、地球のものを頂いているのが面白かったので、ただそれをずっと続けていた感じですね」

今井:「『そのうちに食べてみて』とは、なかなか僕はその発想にならなかったですね」

篠原:「幼稚園児の時も、先生に色んな虫を捕まえて持って行ったら『虫は汚いから持ってきたらいけません』とか。テレビ番組を見ても、虫は悪者扱い。罰ゲームでキャーキャー騒がれながら触ったり、食べたり。なんでそんなに嫌われているのだろう。逆に牛肉や、魚のマグロ等、美味しい側面だけを切り取られて食べている番組内容を見ていると、なぜそこに違いが生まれるのか素朴な疑問でした。虫は普通に美味しいし、面白いのになと(笑)」

○○の○○のお茶を飲んでみましょう!

対談をしている2人にスタッフからお茶が出てきました

篠原:「では、今井さん、僕がどんなことをやっているのか? 何の情報もなく、お茶を飲んでください」

今井:「香ばしい…。特に何茶っぽいと言われてもわからないですけど、中国茶ぽい。烏龍茶みたいな?正解はなんですか?」

毛虫のフンから桜餅の香りがするお茶ができることに驚く今井さん

篠原:「この黒い粒々ですが、よく公園の桜の木で見るもので、時期によっては下を歩くのが無理みたいな人も多い、桜の木につく『毛虫のフン』です」

今井:「フンを乾燥させたら飲めるんですか?」

篠原:「これ飲んでいただいて、後からくる渋さや苦さは煮だし方もありますが、最初に飲んだ時に桜餅っぽい香りを感じませんか?」

今井:「めっちゃ、桜の香りがする!」

篠原:「この子たちは普段、桜の葉っぱしか食べていないのです。これは私の原体験の一つで、幼稚園の時に初めて毛虫を食べた時にめっちゃ桜餅の味がして、毛虫を食べることに対して抵抗はなかったですけど、こんなに桜餅の味がするのかとその時に知りました」

食べていないものを食べるトライ&エラーとは?

幼少期の虫との出合いを話す篠原さん

今井:「僕も子供の頃、父親が自然大好きで虫を採ったり、育てたりがすごく好きで、カブトムシを幼虫から成虫にしたりと、すごく好きで抵抗もなかったですが「食べる」という一線を越えることは考えたこともなかった。習慣は怖いなと。食べてみたらどうなのかな。東北の食用コオロギや佃煮を食べたことあるかないか・・・くらい。食べることに抵抗はないんだけど」

篠原:「わざわざ食べないですよね」

今井:「多摩川で釣りをして、鯉とかフナとか、興味本位で焼いてみたことが実はありまして、もうヘドロ臭くて(笑)、その時は普通に美味しくないから食べないのかなと子供ながらに思ったんですよ。でもきっとザリガニとか美味しいに決まっているなと。上海では普通に食べているし。むしろ、上海に行った時はザリガニ食べたいです。先人たちは何が美味しいと気付くまで、相当にトライ&エラーしてきたんじゃないかな?と思いました。

原:「『美味しくないものも面白さがそれぞれにある』みたいな考え方がベースにあって、今、僕らが身近にある飲食店で食べられるもの、お店で出てくる料理は美味しいじゃないですか。それは当然やり抜かれてきた中で『食べたい』と思うものが残ってきていると思うのですが、やはり食べたことがないものを食べていく中で、美味しいと思うことはあまりなくて、変な違和感を感じたりとか、味があまりしないとか、逆にすごい個性を見つけたりとか、この幼虫のフンのお茶もなぜこんな味がするのかというと、桜の葉を食べているから桜の味がすると」

篠原:「僕らが食べている生き物も、他の生き物を食べて育ってきている訳で、そういうところまでも感じとって食べることができる『食』ってすごいものだなあという感動はあります。だから必ずしも美味しさだけでない、面白さみたいなものも結構あるなと。今、メニューとして提供しているお店の料理もただ美味しいだけではなく、ちょっと違和感あるものとかそういう引っかかりを含めて楽しんでもらえるようにしています」

今井:「とはいえ、これマジでまずいなとか、これは食べられないなというのもあるんですか?」

篠原:「それはありますよ。身近なところでいうと、カブトムシの幼虫とか無茶苦茶美味しくないです(笑)」

世界から注目の昆虫食。持続性のある昆虫食とは?

「東京一極集中しがちな経済を地方でも元気なサイクルを生み出すことにつながれば」と話す今井さん

今井:「SDGs(持続可能な開発目標)の17の目標の一つに『飢餓をゼロに』というのがあり、今、昆虫食がタンパク質として注目されているじゃないですか。お店始めた時と環境が変わってきていませんか?」

篠原:「僕が『昆虫食が好き』とか『食べている』というのをカミングアウトというか、周囲に言えたのも、2013年に国連のFAOという機関が『昆虫食が今後、世界の食糧難とか環境問題がある中でそれを救う救世主になる』と、社会的可能性に言及した発表がされて、世界的にも「昆虫は世界を救うスーパーフードだ」といった記事が出たりしました。

今井:「ニュースにもなって話題になっていましたよね」

篠原:『昆虫食は世の中的にいいこともあるんだ』とその時知って、それは後押しになりましたね。当時、自分が虫を好きなことや、虫の美味しさは、自信がなかったので「よくないことしているんじゃないか?」みたいな感覚がありました。『栄養価も高くて、環境にも優しいんですよ』と話せるようになったのは、背中を押してもらえたかなと思います」

今井:「昆虫食の認知もされてきた訳ですね」

篠原:「6〜7年、昆虫料理の提供を続けてきて、今、本当に自分が面白いなと思っているのは、食べてなかったものが『味』としてポテンシャルを持っているとか、自分の先入観が壊されて物事に対する考え方がちょっと広がってきたり、考え方を変えてくれる『経験』という面白さがあるので、今は国際機関のお墨付きがなくても素直に言えるようになってきた感じで

「昆虫食に注目が集まる今だからこそ、リアルに追求したい」と話す篠原さん

篠原:「逆に食糧難や環境問題で注目されている側面で、誇張されて伝わっているところもあります。タンパク質量の話でも、コオロギはタンパクの素材ではありますが、出回るデータによっては『牛肉と比較するとコオロギのタンパク質は4〜5倍多い』とかあったりして。それも、乾燥の状態ではなく、生の状態で比較していたり。お客さまがその情報だけで『コオロギはタンパク質豊富なスーパーフードなんだ』となるのは不誠実だと感じていて。今の状況はちょっと行き過ぎているなと、店をやりながら感じています。

今井:「篠原さんが嘘を付いている訳じゃないですもんね」

篠原:「適切な情報を伝えた上で食べてもらわないと、スーパーフードと思って食べた人が『実はそうではなかった』とわかった時がマイナスなので。ブームになってしまうと長続きしないから、本当に持続性のあるものを考えていく時は、言葉尻で表現していくのではなくて、実際を突き詰めていきたいと思います」

今井:「SDGsという言葉は知らなくても、もっと大人が勉強して、自分たちだけが儲かるのではなく、『みんなで次世代に残す』という考え方で動いたら、自然にSDGsができていることになりますよね」

レストラン店内壁には昆虫の漬け込み酒や昆虫の発酵調味料がズラリと並ぶ

コオロギビール(800円)や「シルクソーセージ」、「昆虫の佃煮」等、テイクアウト商品も販売。通販も行っている

持続可能性のあるビジネスモデルとは?

「新しいビジネスだからこその困難と経験は楽しさがある」と話す今井さん

話が盛り上がる2人。信念で組織を前に進めてきた時に直面した困難について話しました。

今井:「『ごちめし』、『さきめし』、『ビズめし』は全て、飲食店から対価を取らないビジネスモデルです。例えば2000円のご飯、ごちるとするじゃないですか。ユーザーに2200円支払ってもらう訳ですね。10%のこの200円の中にクレジットカード決済手数料とか全部含まれていて、2000円は飲食店にそのまま入ります。創業の時に少なくとも英語圏、日本語圏で類似サービスがないか調べたのですが、ありそうでなかったのです」

篠原:「他のグルメサイトは予約でもデリバリーでも飲食店が手数料を負担するモデルですね」

今井:「時期的なものもあるかとは思いますが、我ながらコロナで困っているお店からお金を取らないなんて、素晴らしいなと。『こんなに世の中の人の価値観や、目線は変わるのだ』ということを、今、実感し始めています。創業時はアプリが完成するまでは、説明に行っても理解されなかったなあと。当時は苦労とは思っていなくて『そうなるだろうなあ』と思っていましたけど、アゲインストの風は受けました。逆にそれは新しいものの証拠でもありますね。そういうことをやれる楽しさはありますよね」

篠原:「僕ら的にはまだビジネスの軌道に乗ってないのですが、例えばミスマッチみたいな話でよくあるのが、現状、昆虫を食材で調達しようとすると、買える昆虫に関しては結構、原価が高いという問題や、買えないものに関しては自分たちで採りに行って、それを食材として出せるか?の検査等、普通の飲食店がやらないであろうということを僕らはやらないといけない大変さはあります」

今井:「確かに昆虫食をレストランで提供することについては手探りになりますね」

篠原:「自分がやりたいことをやれているので、難しいことや悩ましいことがあっても、無理をしてやれちゃう部分はあるかもしれないですが、それだと持続性がないし、自分たちの店はそこに共感してくれるメンバーでそれでやり切れるかもしれないけど、僕ら以外の他の人たちでやれないと昆虫食の広がりがないなと」

今井:「ビジネスだからボランティアになったらダメですよね。利益を出していかないと」

篠原:「トータルで食材自体の原価を下げる工夫もやっていかないといけないですし、逆に『本当は、食べる物ってすごく価値があるんだよ』と、提案をもっともっと食べる側にも伝えていかないといけないですね。もっと、ただお腹満たすだけ、美味しいもの食べるだけが食じゃないという部分での広がりをどうお客さんに感覚としてある程度持ってもらえるのか?それって自分たち飲食業やっている人、もしくは飲食業じゃないサービスをやられている事業者さんとかいろんな立場の人が、できることをやっていく中で、少しずつですけど草の根的に変わる部分だと思う。今後、僕らとしてもやっていきたいところだと思います」

私たちが目指す持続性のある未来

「地球には、シンプルに本当にいろいろな生き物がいて、その『生き物の豊さ』には、本当にわかっていない凄まじいものがある。生き物に触れ合うことができるというのが生きている喜びだったりするのでトライする気持ちしかわかない」と話す篠原さん

今井:「今の仕事を続けた結果、5年後、10年後、会社や社会、世界がこうなればいいなという夢みたいなものはありますか?」

篠原:「お店にきてくれたお客さんで、例えば採ってきたセミを使った料理を食べてもらった時に、次の日に『公園歩く時の感覚が変わりました』と言ってもらうこともあるし、食の体験はすごく強度があるので『伝わる』、『共鳴する』体験を経て、感覚が変わってくるポテンシャルってすごく大きいと思う。もっと、虫だけじゃなくて、いろいろな生き物がいて、生き物がいるからこそ、自分たちも生きられているということに対して、感覚としてみんなが持っていた方が生きている時の見え方が豊かになるし、そんな『考えられる社会』への一助になれていたらいいなと」

今井:「なんかよく分かります。共創ですよね」

篠原:「『最適な選択肢に繋がるきっかけ』というのはこれからも作っていきたい。それって昆虫を食べるか、食べないかみたいな、小さい話ではないと思うので、そういうところを飲食店だったり、生産者さんだったり、他のサービス事業者さんだったり、僕らは飲食店だけでなくて、いろんな食体験を届けていけたらなと思っています」

今井:「篠原さんは、私と世界観が似ているなと思いました。『足るを知る』という言葉があって、何億年もつながってきた生物の歴史に比べて人間はちっちゃいものだし、経済的にみても一人の人間が一市民として生活している中で、欲張りすぎるほうが不幸になるような気がしていて、だから共存共栄して、一つの利益を一者がガバっと持っていく社会よりは「みんなとこう分け合えば、みんなでシェアできる」といった経済圏や共創が大事だなと」

篠原:「今、SDGsの視点で盛り上がるメディアや世の中で生きていて、違和感感じることはその辺にあって、どうしても目線が自分よがりで人間よがりになってしまっている。それが本当に自然に取ってどこまでいいことなのかを、どこまでの解像度で見ているのか?生き物について不幸な結果を生むということが起こっていないか不安になります」

今井:「ごちめしの仕事をしながら思うのは、『自分だけが』というエゴが働くと、やはり、みんな本来の自然としての人間、生物、を忘れがちになると思うので、やはり「足るを知る」でお互いに分け合えるような社会を本気でみんな考えないと、SDGs本来の環境に及ぶので、譲り合う、与え合う、奪い合うよりは与え合うような価値観が心地いいんじゃないか?未来のスタンダードな価値観になればいいのにと心底願っていて、それが夢見がちであろうと必要な概念になっていく、そういった社会が実現する時に「ごちめしってよかったよね、さきめしってよかったよね」「あれで気づいたよね」と1人でも言ってくれたら、共感してくれる人を増やせていけたらいいなと思います」

篠原さん、ありがとうございました

会社DATA

「ANTCICADA(アントシカダ)」

住所/東京都中央区馬喰町2-4-6 ログズビル1F

電話番号/03-6888-0412(代)

営業時間/コース:金18:30~、土12:00~、18:30〜(完全予約制) コオロギラーメン:日11:00~15:00、17:00〜21:00

定休日/月・火・水・木

text:Kenji Baba(CR) photo:Ryu Uchida

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