「エシカルの基準を常に模索するのが私たちの仕事」/andu amet・鮫島弘子さん

SDGs対談

【SDGs対談・第3回】鮫島弘子さん×今井了介 「びずめし特別対談企画」の新企画、第3回。「ごちめしさきめしびずめし」プロデューサーの今井了介が「SDGs」をテーマにゲストとお話します。今回は、エシカルなラグジュアリーブランド「andu amet(アンドゥアメット)」代表でチーフデザイナーの鮫島弘子さんをゲストにお迎えしました。

andu ametのバッグ「Hug Hug」(鮫島さん)と
andu ametのバッグ「Hug Hug」(鮫島さん)と「Big Hug」を持って撮影

【SDGs対談・第3回】鮫島弘子×今井了介

2012年、ファストファッションに代表されるトレンドで大量生産、大量消費を繰り返す社会に疑問を持ち、エチオピアシープスキンを使い長く使い続けられる最高のブランドを作りたいと起業。エチオピアでも会社を設立し、現地のスタッフと「エシカルなラグジュアリーブランド」を目指している鮫島弘子さんが今回のゲスト。本当に環境にいいこととは何か?エシカルの基準は時代で変わる?自身で、しかも海外でリアルに実践してきたからこその鮫島さんの言葉には多くの気付きがありました。

▼キーワード▼

● 鮫島さんの会社はこんな会社

● なぜ、エチオピアで起業したのか?

● エチオピアはこんな国

● びずめしが目指す世界観とは?

● これからのビジネスモデル

● 本当のエシカルとは?

● ボランティアをやると自分がハッピーになる

鮫島弘子さん/東京都出身。化粧品メーカーでデザイナーとして働くなか、短いサイクルで大量生産、大量消費を繰り返すトレンドに疑問を感じるようになり退職。2002年にボランティアとしてエチオピア、そしてガーナに赴任。エチオピアでファッションやデザインに関するプロジェクトに複数携わる。帰国後、外資系ラグジュアリーブランドのマーケティング担当を経て、2012年、株式会社andu amet(アンドゥアメット)を設立。世界最高峰の羊革、エチオピアシープスキンを贅沢に使用したラグジュアリーなレザー製品の製造・販売を開始。2015年、日系企業としては3社目となる現地法人をエチオピアに設立。起業家としても注目され、今年創業10周年を迎える。
今井了介/1971年、東京都生まれ。音楽プロデューサー。「ごちめし/さきめし/びずめし」を運営するGigi株式会社代表。1999年に手がけたDOUBLE「Shake」のヒット以降、安室奈美恵「Hero」やLittle Glee Monster「ECHO」など多くのアーティストの楽曲・プロデュースを手がける。

東京都渋谷区神宮前にある旗艦店「andu ametコンセプトストア」にて2人の会談スタートです

●鮫島さんの会社はこんな会社

今井了介(以下:今井):「鮫島さんは数少ないエチオピアでの日本人起業家として、現地での生産では、環境や社会貢献に配慮するエシカルという部分でも注目されていると思いますが、どういったお仕事をされていますか?」

鮫島弘子さん(以下:鮫島):「私は2012年から約10年間、革製品のファッションブランド『andu amet』の経営をしています。ユニークな点が3つありまして、1つはエチオピア産の羊革に特化しているところ、もう1つはデザインが日本の伝統工芸の美しさとアフリカの大自然や文化の美しさを融合させたオリジナルのデザインというところ、3つ目は商品の見た目の美しさだけではなくて、見えない背景も含めた真の美しさを追求しているところです」

2015年、「atelier andu amet P.L.C.」をエチオピアに設立した

今井「見えない背景というのはエチオピアでのエシカルな活動のことですよね。社名(andu amet)の由来を教えて頂いていいですか?」

鮫島「andu amet(アンドゥアメット)という社名は、生産地エチオピアの言葉、アムハラ語で、 「一年(ひととせ)」という意味です。

化学繊維が買った瞬間が最高だと劣化していくだけなのに対して、革製品は一年一年違う味が出て、ずっと長く使えます。物を入れて運ぶ道具としての機能だけでなく、パートナーのように一緒にいるひととせひととせ楽しんでいただきたい、そう言う素敵な時間をお客様に提供したいという思いでこの社名をつけました」

今井「僕も結構、靴とか一年に一度メンテナンスに出して、履き続けています。一番、古い靴だと高校生の時に買ったローファーを今でも履いています」

鮫島「それはすばらしいですね」

今井「自分の足が甲高幅広でやっと靴が足に馴染んできた頃が自分は履きやすくて。自分が気に入った靴はメンテナンスして長く使っています。思い入れもありますから」

エチオピアシープスキンを使用したバッグ「Hug Hug(ハグハグ・83,600円・税込)」

鮫島「使う人によって違いますよね。この同じバッグ(店頭のバッグを指さして)を私が使うのと、別の方が使うのとでは、使い方も何を入れるかも、どういう場でどれくらいの頻度で使うかも異なりますから、風合いも形も変わってきます。靴でもジャケットでもその人の体型にあわせてだんだんフィットしてくれる。革ならではの楽しみですよね」

今井「レザーに限らず、元々ファッションが好きだったのですか?」

鮫島「そうですね。ファッションや美容が好きで、私が子供の頃は、ファッションは今みたいに短いサイクルで変わっていなくて、安いものが今みたいになかったし、少ないお小遣いの中から選んで、自分が気に入ったものを買って、購入する喜びとか、どう組み合わせるかといったことを考えるのが好きでした。

時代が変わって、どんな形のものでも簡単に手に入るようになると、本当に自分が好きなファッションは何なのか?を見極めるのは難しいだろうなと。実は若い人のファッション離れって、ファストファッションがすごく一般的になって、何でも手軽に購入できるようになったのが原因なのかと思ったりします」

今井「今の革製品のお仕事は、ファストファッションに対してのアンチテーゼといいますか、思うところがある感じですか?」

鮫島「いろんな選択肢があっていいと思っています。ただ、ファストファッションに偏り過ぎているのには問題意識を感じますね」

なぜ、エチオピアで起業したのか?

化粧品会社のデザイナーだった鮫島さん。会社を退職し青年海外協力隊のデザイン隊員としてエチオピア、ガーナへ

今井「エチオピアに注目されたのは青年海外協力隊がきっかけと聞きました。エチオピアとガーナに行ったとか」

鮫島「そうです。もともとボランティアで派遣されたのが最初の訪問でした」

今井「ガーナでなくて、ビジネスをやるにあたり、エチオピアを選んだ理由は、何ですか?」

鮫島「もちろんエチオピアが好きだったということもあります。エチオピアは、アフリカで唯一植民地化されなかった国で、その分、昔からの文化が今もまだ残っている魅力的な国です。ただその分経済成長や産業の発展は遅れていました。すばらしい羊革があるにも関わらず、それらが、付加価値の低い原皮の状態で輸出されているということを知り、デザイナーの自分にできることがあるのではないかと思いました。

エチオピアは道路や電気等、インフラの整備が他のアフリカ諸国と比べて遅れていた

今井「原皮で輸出しても安いですよね?」

鮫島「はい。原皮で輸出しても二束三文で、付加価値はそれが最終製品になるところでプラスされます。例えば、イタリアに輸出されて、なめされるとイタリア製の革になり、それが、ヨーロッパで縫製されて、フランス製やスペイン製のバッグといった革製品になって、その時に何十万円、ときには何百万円となるけど、原皮の産出国のエチオピアで輸出する段階では二束三文の価値。

技術も育たないし、「エチオピア産」ということも誰にも知られないまま。イタリア製の革は有名ですが、あんなに小さな長靴のような半島に何万頭も羊や牛が住んでいる訳ではもちろんありません。彼らは原皮を仕入れて、加工をしてイタリアの革として販売するのです。

もちろん彼らのタンニングの技術は優れているからそこで付加価値がつくわけですが、、いい革というのはタンニング技術によるものだけではなく、原皮の品質による部分も非常に大きいのです。だから、高品質の革の産地であるエチオピアで、より高い付加価値がつけられることをしたいと思いました。」

今井「エチオピアの羊革を見て、感じるものがありましたか?」

鮫島「実はエチオピアの革を初めて見たときはちょっとがっかりしたんです。『こんなの欲しくないなあ』みたいな。それはエチオピア国内で流通していた物でした。ところが、任期終了間際、最後の仕事としてファッションショーを手掛けた時に、輸出用のエチオピアの革を初めて見ました。その時に『こんなにいい革があるのか』とびっくりしたんです。

コーヒーでも何でも、発展途上国では本当にいいものは国内には残らないことが多いです。高品質のものは優先的に輸出され換金されて、質の悪いものが自国で流通するというのが途上国の現実です」

今井「日本でも日本中の地方の漁港に水揚げされても高級魚の多くは東京の築地、今だと豊洲市場に集まるという話に似ていますね」

鮫島「皮肉なことに私はエチオピアに住んでいたせいで、それまで本当に良いエチオピアの革を見る機会がなかったのです。革にもいろんな品質があります。

多くの方は本革は本物、合皮はにせもの、くらいのイメージしかないかもしれません。でももっともっと奥深くて、例えばここにあるスペインの羊革とエチオピアの羊革を比較した時に、ぱっと見はあまり違いはわからないですよね。でもこちらのスペインの革は尖ったもので刺すと簡単に破れます。

羊の皮は柔らかいけど強くないと一般的にいわれていますが、エチオピアの革は同じように尖ったもので刺してもまったく破れないんです。エチオピアの羊革は繊維が違って、顕微鏡で見ると一本一本が太くて弾力性があります。強度もあるし、伸びる、伸びてもまた元に戻ります。エチオピアの羊革は強いとは聞いていたのですが、働き始めてから改めてそれに気付きました」

スペインの羊革とエチオピアの羊革にペン先を刺すことでエチオピアの羊革がいかに伸びるのか?実演が始まりました。まずは、スペインの羊皮から。すぐに穴が開きます

エチオピアの羊革だと強度もあり、繊維の1本1本が太くて弾力性があるので伸びるそう。穴は開きませんでした

今井「加工まで全てエチオピアのスタッフさんで制作しているのですか?」

鮫島「私たちはタンナー、つまり革を作る工場からエチオピアの革を買ってきて、エチオピアの自社工場で縫製しています。大量生産ではないので雇用数はそこまで多くはないですが、ひとりひとりの技術力が高いのが特徴です。これまでは技術力の低さにより最終加工品の輸出は難しかったこの国で、長期的な技術移転をして、極めて付加価値の高い製品を作っています。今日のテーマのSDGsでいえば17番にあたりますね。」

今井「エチオピアの人々が支援に慣れてしまって、日々の労働意欲が低い時が多いと何かの記事で読みました。御社では、現地のスタッフが革からバッグなど革製品に加工していく過程に参加できて、商品を購入して、使ってくれるお客様のイメージもできるからプライドも満たされる。労働の意欲も上がるから素晴らしい取り組みですね」

エチオピアのアトリエのみなさんと記念撮影。コロナ禍なので少し離れて立ちました

●エチオピアはこんな国

「同じアフリカのガーナには行ったことがあるけど、エチオピアには行ったことがない」と話す今井さん。エチオピアの食の話に興味津々です

今井「ちなみに僕は食にまつわるフードテックをやっているので気になるのですが、エチオピアの人は羊をたくさん食べるのですか?」

鮫島「はい。食べます。だから私達が使っている革はすべて食肉の副産物になります。エチオピアの肉の価格は日本とは少し違っていて、鶏肉が一番高級、牛肉が一番安くて、羊肉がその中間くらい。私たちの会社でもお正月やクリスマスになると、羊肉を買ってきて、職人たちが自分たちで捌いてくれるのを皆でいただきます。普段から皆、自宅で自分たちで捌いて食べているので、手つきもなれたものです(笑)」

今井「豚は食べないんですか?」

鮫島「豚は宗教上の理由で食べないです。牛、羊、鶏、あとヤギも食べます。一頭を皮からきれいに剥がして、皮商人に売って、皮商人がなめし工場に売って、なめし工場が革を作って、それがまた私たちのところに戻って来るサイクルです」

●びずめしが目指す世界観とは?

「びずめし」について熱く説明する今井さん

鮫島「実はコロナで飲食店やっている友達が困っているというのを見た時に、『こんなサービスあるけど導入してみたら』と、御社の『さきめし』をオススメしたことがあります。まさか、そのサービスの会社の社長さんとお会いできるとは」

今井「最近は、『さきめし』に続き、『びずめし』という社食サービスを始めまして、企業が社員に対して、『社食として近隣の飲食店を使っていいよ』というサービスです。大企業になればなるほど、社食をオフィスの中に作るとその中だけで経済が回ってしまう。会社の外にも地方にも美味しいものがたくさんあって、後世に残したい味もたくさんあるのに、今では、コンビニがあり、ファミレスがあり、仕出し弁当屋さんがあり、全国画一の味になってきています」

鮫島「どの都市に行っても同じチェーン店ばかりだとつまらないですね。旅先ではその町ならではのご飯をいただきたいです。」

今井「地元の人は地元の美味しいものを食べて、美味しい料理やお店を後世に残せるような経済圏を作る、サステナブルに地域の経済が回るように、地域の企業の社員が地域の飲食店を利用できるように、社員が飲食店の方とのコミュニケーションが生まれるように、東京一極集中ではなく地方の経済を回す、というのが、私たちのサービスの目指す世界観です」

鮫島「確かにいいアイデアですよね。初めて知った時に『こういう手があるのか』と思いました。リリースを読んでワクワクしましたよ」

地方の社員や、リモートワーク、ワーケーションをしている社員も本社の社員と同じ公平な福利厚生が受けられると語る今井さん

今井「今、企業さんだと、社食のフロアを持っていても、リモートワークが増えてしまって、社食フロアが上手く活用されていないというデータもあり、そうであれば、そのビルの社食フロアを解約して、その分、近所の飲食店とつながったり、地域の経済を企業が支えましょうというコンセプトでやっています」

鮫島「会社のある地域だけじゃなくて、リモートで働いている社員たちの自宅の近くにある飲食店で使えるのはいいですよね」

今井「その通りです。自宅でのテレワークや、ワーケーションで働いている社員にも社食のサービスが受けられるのがメリットです。導入いただいている企業には社員に対して公平性を保つことができると評価されています」

鮫島「地元の産業のサポートと社員の食による健康も考えられてますね」

今井「あとは社員のコミュニケーションですかね。ランチ情報の交換やお誘いなどで交流が生まれたり、社員にとっても好きなものをその日の気分で外に食べに行けたらうれしいですよね。福利厚生だと住宅補助よりも人気があるらしいですよ」

鮫島「私も会社員としてラグジュアリーブランドに勤めていた時に、お客様にラグジュアリーな世界観をどうやって伝えるかを考えながら、夜はコンビニ弁当を食べている生活で、矛盾してないかなと思っていました。エチオピアでも家族との時間、特に食事の時間を大事にしていますね」

●これからのビジネスモデル

「大量生産、大量消費が当然だと思わないことが大事」と話す鮫島さん

今井「SDGsの取り組みとして、パタゴニアさんは、『100%再生可能かつリサイクル済み原料への切り替えに取り組んでいます』と宣言していて、廃棄物のプラスチックから再生したポリエステルを使って服を作ったりする訳ですね。購入者としては、数百円高くなるかも・・だけど、二酸化炭素の排出量の削減につながるということで、地球に優しい素材を使いたい消費者に支持されています。化学繊維の製品も変わりつつあると思います。そういう動向が若い人たちにとって、当たり前になって、意識されるようになればいいなと思っています」

鮫島「そうですね。一番大事なことは、飲食もそうだと思いますが、大量生産、大量消費が当然だと思わないこと。それが重要かなと思っていて、たくさん注文して、たくさん残すのは、日本人の美学ではないとは思いますけど、まだまだ問題はありますよね。食料品のフードロスの問題もそうですし、衣料品は言わずもがなで、毎シーズンごとに新しいものを作っては廃棄するということをやっていますね」

今井さんの鮫島さんへの質問が続きます

今井「ベストな方法はどうやったらいいのでしょう? 受注生産なら一番ロスがないですか?」

鮫島「受注生産であってもなくても、売り切れる量だけを作るというのは大前提にしなければならないと思います。たくさん売るというビジネスモデルにしないで、食品であれば最後まで食べる、ファッションだったら最後まで使ってもらうということを想定して販売するということではないでしょうか。例えば、当社のバッグは食肉の副産物ですが、それが、1年で飽きられて捨てられてしまったら、何の意味もない訳です」

今井「バッグを作る側の情熱もそういう意味では反映されますね」

鮫島「スタッフには、購入者(ユーザー)に商品を最後まで使ってもらいたいと思ってもらうこと。今時100円ショップのマグカップって、すぐに壊れてしまう訳ではないですよね。でも、壊れる前に飽きられて捨てられてしまう。ファッションもそうだし、食べ物も残念ながらそれがトレンド。

でも一皿1万円のシャトーブリアンはやみくもに仕入れて余ったからってじゃんじゃん捨てたりしないですよね。値段もあります。でも値段だけではなくて『これは大切にしなきゃ』と思ってもらえるのが、これからの本当のラグジュアリーだと思うんです。食べ物でも衣料品でもそういう意味では似ているところがあるのかなと思います」

●本当のエシカルとは?

「命をいただくからには、革もお肉も内臓ももちろん、骨もツノも余すことなくいただくことがエシカルということ」と話す鮫島さん

今井「僕の知り合いに羊肉の焼肉専門店をしている方がいて、彼が話すに、『日本人はラム肉食べた後の皮を上手く活用していない』と、何かいい活用の仕方はないかとクラファンやっていました。結構、廃棄されるらしくてもったいないと。上手く活用されている方が目の前におりました(笑)」

鮫島「本当におっしゃるとおりです。『牛の飼育が地球温暖化の気候変動に繋がっているから、牛肉の消費は減らした方がいい』という考え方があり、これは本当にそのとおりだと思います。ただその一方で、現時点では食糧としての消費されている現実がある。命をいただくからには、お肉や内臓はもちろん、革も骨もツノも余すことなくいただくことがエシカルということなのだと思います。今、革製品を着ない、身につけないヴィーガンファッションが流行ですが、その一方で世界的に食肉は増えています。そうすると何が起きるかというと、牛皮が廃棄されているのです」

今井「なるほど、そんなことになっているのですね」

鮫島「ものごとの流れをよく理解しようとせず、思いつきで動いてしまうと、環境にいいことをしているつもりでも、結果、よくないことになってしまう。例えば、フェアトレードのコンセプトで途上国で作られているからといっても、それが大量に生産され、捨てられてもよくないです、もっともっとみんなでディスカッションすることが大事だと思います」

今井「業態越えて、大きな視点でグランドデザインを考えることが大事ですね」

A4サイズの書類やPCもたっぷり入る容量ながら、手にしていることを忘れるほどの軽さのバッグ、「Airy(エアリー・30800円・税込)」

鮫島「起業した時に、『私たちはフェアトレードとかエシカルとかやっているけど、そういうことをみんなが当然にやるようになったら、そんな言葉を言う必要もなくなるし、言わないでもいい世の中が目指すべき世界なのだろう』と、10年前は何となく思っていました」

今井「10年後の現在はどうですか?」

鮫島「10年前に思った考えは変わりました。フェアトレードプレミアムを払えばそれだけで途上国の貧困問題が解決するわけではない。アップサイクル素材を使えば環境が改善するわけではない。世界中には解決すべき課題はたくさんあり、エシカルの基準もどんどん変わっていきます。それが何かを模索するのが私たちの仕事。

『エシカル』という言葉を言わなくていい時代は永遠に来ないですよね。どんなにフェアトレードを実践する企業が増え、フェアトレード商品を選んで購入する人が増えたとしても、エネルギーをどう使うのかとか、ゴミをどういう風に廃棄するかなど、やるべきことは次々と出てくるので、私たちは常にアップデートしていかないといけないと思っています。」

andu ametのロゴ。エチオピアの羊をモチーフにしたロゴマークだ

今井「ファッションの中で、今、脱レザーをしようとしている方も多いじゃないですか。その中でグランドデザインの話もありましたけど、今の革製品のビジネスを続けていく上での考え方みたいなものはありますか?」

鮫島「いくつかあると思っています。1つは食肉がなくならない以上、革を使うというのが私たちの資源の有効活用という意味で必要かと思います。もう1つは現状、本当に長く使える素材というのが合成繊維ではまだないというのと、合革とか代替できるものはマイクロプラスチックの問題が今発生している。

私たちは現状、この素材、羊革を使うことは、エシカルの一つの選択肢である思っています。一方で、気候問題では牛肉の消費を減らすことが二酸化炭素の排出量削減につながるので、牛肉の代わりに羊肉や豚肉が食べられるべきだと思います。

そして、大豆などを使った代替肉ビジネスが今、活発なので、代替肉が今後、一般化したら、私たちも動物の革を使うビジネスを辞めるという選択もあるのかなと思います」

今井「仕事にはミッションがあるということがよくわかりました」

鮫島「エチオピアの羊革は本当に素晴らしい素材だなって、軽さ、強度もそうだし、エシカルの視点でも私は今、いいなあと思っているので使っています。でも、そうじゃなくなる日が来るかもしれないですね」

●ボランティアをやると自分がハッピーになる

2人のトークにも熱が入る

今井「やりたいことやるにはボランティアがいいというお話を何かの記事で読んだのですが、今の仕事もボランティアからですよね?」

鮫島「私は自分の人生でボランティアをかなりしてきました。前職で働きながらNPOや社会起業家のプロボノをしたり。その経験があったおかげで起業もできたと思っています。

SNSなどで無料の労働が問題になったりしてますよね。やりたくない人に強制するのは論外ですけど、自分で決めてやってみるのはプラスになることが多かったので、日本でももっとボランティアやプロボノが普及したらいいのにと個人的には思っています」

今井「東京オリンピックの時、クリエイターに無料でやってと言われた等、よくSNSで炎上していますね」

鮫島「自分が興味のある分野で働けばいいんじゃないですか。たとえば起業したいひとがいたとして、でもメディアの記事だけ読んでいても、社長はいいことしか話さないじゃないですか。ボランティアとして企業の内側に入れば、外からでは見えなかった難しさがあることや、資金調達の方法、反面教師的にこうやったら失敗しそうだ、等が分かります。自分自身はボランティアをやって良かったし、楽しかったですよ」

今井「確かに社内の人間になって初めて分かることがありますよね」
鮫島「目的は色々あっていいと思いますが、誰かのための自己犠牲的なボランティアではなくて、自身が楽しいボランティアはいいと思います。日本は雇用の流動性が低いですよね、別の業界を経験してみたくても、なかなか今の場所から動くのはハードルが高かったりもする。だったらボランティアとして中を見るのも楽しいと思いますし、人脈を作るのにもいいと思います」

旗艦店「andu ametコンセプトストア」の店内

今井「マイクロプラスチックの話題がありましたが、昨年の夏、マイクロプラスチックを砂浜に拾いに行くという企画に参加して、すごく面白かったです。例えば、海の砂を透明なバケツにザパッと入れると、砂とは明らかに違う細かいプラスチックだけが水面に浮かびます。

ペットボトルは細かくはなるけど、分解は絶対にされない。最後に土になることが絶対になくて、元のプラスチックの色があるからとてもカラフルな色でした。

これを集めて、再生素材にして、オリジナルTシャツを作ったり、元の素材に戻したり、再生プラスチックの会社のアクティビティとして、地元の子供たちに『海をきれいに使おうね』とメッセージを残している訳ですが、ボランティアをやったからって、急激に地球が改善される訳ではないけど、『気付きがある』というのはすごく貴重なことだなと思いました。その日は一日気分が良くて。大人になっても学ぶことがこんなにあるのかって」

鮫島「データによれば、日本人の自尊心やレジリエンス、幸福度は他国にくらべて低いのだそうです。また幸福度とボランティアの経験は比例するという別のデータもあります。

私自身も社会や環境に配慮された商品を選んだり、ボランティアやプロボノをすることで自分自身も満たされたという経験があります。自分に誇りが持てるし、そういう小さな幸福や誇りを少しずつ積み重ねて、自分も生きている価値があると思えるようになるんですよね」

今井「ブリティッシュコロンビア大学の研究で、人のためにお金を使う、人のために何かを行動することによって、幸福度が20パーセント向上するという研究結果があるらしくて、『自分のためだけによくなろう』ではなくて、『誰かのために何かできることないかなあ?』と、ボランティアはそういうことですよね。それが自分の幸福になっているというのが日本では浸透していないのかもですね」

お財布にもなる4wayバッグ「Baby Hug(ベビーハグ・45,100円・税込)」

鮫島「あと、幸福感が長続きすると思います。衝動買いで欲しいものを買うとか、いいものを食べるとかももちろんハッピーにしてくれるけど、意外とすぐ忘れてしまうんですよね。でもたとえばいつも訪れる海でビーチクリーニングをしてきれいになったとか、自分のちょっとしたサポートで誰かが幸せになって自分も嬉しかった、みたいな満足感や幸福感はじわじわと続くじゃないですか。そういうことが積み重なると自分自身の幸福度も上がっていくと思うんです」

今井「私もボランティアというか、NPO、NGOの支援とか、自分ができることを少しずつやるというのはあったのですが、音楽の仕事をしながら何故フードテックの事業を始めたかというと、11年前の東日本大震災の時に音楽だけでは救えない危機を目の当たりにして。音楽では寒さも空腹も住む場所も提供できないというのが根底にあったので、ボランティアというか、ギブし合いながらその先に見えてくる社会というのが僕のGigiという会社でトライして実現したい世界観なんです。その世界観を本当に実践されている方に今日お会いできて、僕も刺激になりました」

鮫島「ギブアンドテイクと言いますが、先にギブすることの方が円滑にいくというのは、実際に人間関係でもありますね。それをそのままビジネスモデルにされたということですね」

今井「まだまだ、壮大な実証実験だと思って会社が存続するべく頑張っています」

鮫島「素晴らしいです!」

今井「いえいえ、今日はありがとうございました」

対談終了後、大容量トート「Shubu-Shubu Make My Day(シュブシュブ メイクマイデイ・52,800円・税込)」が気になって仕方ない今井さん
鮫島さん、ありがとうございました

企業データ

andu amet https://anduamet.com/

旗艦店

住所/東京都渋谷区神宮前4-16-12 青山ビル1F

営業時間/13:00-19:00

定休日/火・水

text:Kenji Baba(CR) photo:Ryu Uchida

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